2014年4月号 | 創明館便り

30余年前の事。船乗りに憧れ、故郷を離れ入学した東京の大学。
数度の航海実習と久方ぶりに陸に上がった先輩たちからの話し。
それらが、自分の船乗りへの憧れを砕いていった時、
21歳の自分は自らの将来をとらえることができなくなってしまった。
自分の頭での思考の容量を超え、
自棄的な逃避的なそして自分の心が自分自身を自覚するという事ができなくなっていた時、
私が救いを求めた方がいた。
杉並区にある児童養護施設「杉並学園」の園長先生、森芳俊先生だった。
先生に話を聞いてもらいたいとどうして思ったのか。先生は私の母方の祖父の兄弟、つまり私の大叔父。
そんな縁故があったのは確かであるが、私財を投じ施設を開設し、
身寄りのない多くの子供たちとその生活を共にされていることから、
先生に何かの答えを頂けるものと思った。
先生は進路に悩む私の不安定な気持ちを静かに聞いてくれて、
「思うようにやりなさい」というメッセージを私に発してくれた。
「本当に好きにやっていいのだろうか」と自問する自分がいた。
帰路、「自分自身を意識する感覚」をバスの車中で感じた時、
私は自分の心が自分の意識の中にもどってくるような思いであった。
とても不思議な感覚で生涯一度きりの経験であった。

一昨年、私は先生の仏前に30年以上の御無沙汰で当時のお礼を報告することができた。
あわせて、現在の学園の子供たちの抱えるいろいろな問題の話を伺うことができた。
学園で過ごす子供たちの様子の一端を知った私が思ったことは、
「勉強ができる環境」ということはありがたい環境だということ、
「勉強して、そのことで認めてもらえる環境」はとても恵まれていることなのだということ。

「受験生、大変ですね。がんばってね」式の言葉は私にはしっくりこない。
それはちょうど、山頂を目指して黙々と一歩一歩を踏みしめている登山者に
「大変ですね、がんばってください」と声をかけるような感覚と通じるところがある。

今年度も新たな受験一年生が受験年度を始めた。
受験生は「自分の目標に向かって進む」その環境が与えられていることにまず感謝すべきなのだろう。
そしてまた、私自身も前年度の反省をもとに、今年度をスタートする。

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この記事を書いた人
創明館 吉田

塾代表 吉田聡彦 : 練馬区高松(光が丘・夏の雲公園前)にある小学生・中学生・高校生向けのグループ/個人の学習塾を運営しています。
塾運営での想い、感じたこと、発信したいことなどを更新しています。

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