「数式がかっこいい、というのはどういうことですか?」
高3数学の授業で生徒から受けた質問だ。
心に“ずどん”と来る質問で、
自分なりの思うことを話しながら、
一度も話す機会のなかったことを
話せることの喜びを感じていた。
記述のことば使い、数式の変形の質問もよくする生徒だが、
どうしてこんな質問を、と思ったら
「学校の授業中に聞いた」とのことであった。
最も美しいともいわれたりする数式は、
数学者オイラーが導いた数々の定理の中での一つだ。
一般に「オイラーの公式」と呼ばれる。
映画化された「博士が愛した数式(小川洋子著)」にも登場する。
数式に登場する文字の意味、その値を知っている生徒だったから、
そのすっきりとした式が非常な神秘さを含んでいることを説明することができた。
証明された数式に「神秘さ」なんて言いはばかるのだが、
シンプルであってそして含む神秘さがあってこそ、
もっとも美しい数式と言われている気がする。
数式の証明を理解するには高校数学を超えた知識が少しだけ必要になる。
「学校のテストが終わったら読んでみたい」と
私の提示した本に応えてくれた。
「興味を持つ瞬間」を学校の授業の中で彼は得た。
「数式のカッコよさ」などというおよそ考えなかったことを
考え始めたその瞬間だったのだろう。
こんな「興味を持つ瞬間」が人それぞれにあって、
それが人生の針路に大きく影響していく。
「入学、卒業」といった学生時代の節目はみな共通してその時期を迎えるが、
「興味を持つ瞬間」というのは
人それぞれ日常いかなる時にでも生まれうる。
そしてまたこの「興味を持つ瞬間」というものこそ
人生に大きな意義や豊かさを与えていく瞬間のような気がする。